
「コウノトリのゆりかご」から学ぶ、命と家族、そして地域のつながり
先日、合同アクティビティの一環として講演会を開催しました。今回の講演では、「コウノトリのゆりかご」に預けられた当事者である みやつ こういち 氏をお迎えし、命を守る仕組みの背景と、当事者としての体験、そして現在取り組まれている地域活動についてお話しいただきました。
会場には多くの参加者が集まり、制度の是非を単純に語るのではなく、「理解したうえで、それぞれが考える」ための貴重な時間となりました。
「赤ちゃんポスト」ではなく、正式名称を大切に
講演の冒頭で強調されたのが、正式名称は「赤ちゃんポスト」ではなく コウノトリのゆりかご である、という点でした。
言葉の印象だけで「赤ちゃんを預ける場所」と誤解されがちですが、本来は「まずは相談をしてほしい」というメッセージが強く込められている仕組みであり、どうしても相談につながれない人にとっての“最後の手段”として存在していることが語られました。
仕組みの概要:匿名性と“命を最優先する”設計
講演では、預け入れ時の流れも具体的に紹介されました。
扉は、預けに来る人のプライバシーを守るため、通路を引いた先に設置されている 扉の先で手紙を取ることでロックが解除され、保護されたベッドに子どもを預けられる 受け入れ後はブザーで病棟に通知され、看護師が2名で対応 1名は子どもの状態確認 もう1名は外に出て、周囲の安全確認や、立ち尽くして動けなくなる保護者への配慮・フォロー
また、匿名で預けられることについては「親を追いかけない」「責めない」ことが前提として語られました。命を守ることが最優先であり、そのための匿名性だという説明は、多くの参加者の受け止め方を変える力がありました。
数字の“多さ”ではなく、「必要とした事実」を見つめる
制度開始は2007年。講演内では、これまで預けられた命が積み重ねとして紹介されました。
これまでに預けられた子ども:193人 2024年度の預け入れ:14人
一方で、「増えた・減った」で良し悪しを測れるものではなく、“必要とした人がいた” という事実そのものを社会として受け止めてほしい、という言葉が印象的でした。
当事者として語られた体験:「家族とは、最後まで味方でいること」
講演では、ご自身の体験も率直に語られました。
生後まもなく母親を亡くし、3歳で「コウノトリのゆりかご」に預けられたこと。記憶として鮮明に残っているのは、扉の絵と外観だったこと。身元が分からないまま戸籍が作られ、誕生日が「11月3日」とされたのち、後に本当の誕生日が「11月5日」だと分かったときの戸惑い。戸籍の続柄に「同居人」と書かれていた時期があったこと——。
どれも“制度の話”でありながら、結局は「一人の人生の話」なのだと、静かに突きつけられる内容でした。
そして、講演の中心にあったメッセージが
家族とは、血縁かどうかではない。何があっても、最後まで味方でいること。
という言葉です。ご自身を守ろうとした里親のお母様のエピソードも紹介され、会場の空気がぐっと深くなったのを感じました。
現在の活動:子ども食堂と「子ども大学」
講演後半では、現在取り組まれている活動について紹介がありました。
子ども食堂
全国の子ども食堂は 12,601か所。
熊本は 229か所、福岡県は 531か所 という数字も共有されました。
活動の狙いは「食事でお腹を満たす」だけではなく、名前で呼び合える関係、つまり地域の中でのつながりを育てること。きっかけの一つとして、福岡で起きた痛ましい出来事(孤立の中で起きた事件)に触れ、「居場所があれば、未然に防げたかもしれない」という問題意識が語られました。
子ども大学
もう一つが「子ども大学」。小学校高学年の子どもたちが大学の教室に集まり、専門家の講義を受ける取り組みです。熊本では年2回(主に3月・8月)開校し、親子参加も特徴。子どもが自由に発言できるよう、座席をあえて子どもと保護者で分ける工夫も紹介されました。
この活動は、熊本 を拠点に続けられており、「いずれは“ゆりかごのない世の中”へ」という目標も語られました。また、大阪で新たな“ゆりかご”の動きがあることにも触れられ、社会全体の課題として考える必要性が示されました。
私たちに残された宿題:「理解した上で、どう支えるか」
講演の締めくくりでは、賛否が分かれるテーマだからこそ、感情的な賛成・反対ではなく、まず理解し、その上で判断してほしいという呼びかけがありました。
そして、制度を頼らざるを得なかった人を責めるのではなく、地域の中で支えられる仕組みを増やしていくこと。
その先に、子どもたちの未来がある——。参加者一人ひとりが、自分の言葉で語り直したくなる講演会でした。
運営協力へのお礼
当日は、控え室の鍵や搬入車の許可書の回収、チェック用紙の確認、精算手続きなど、細やかな運営対応にご協力をいただき、無事に全日程を終えることができました。関係者の皆さまに心より御礼申し上げます。
結びの一文
私たち一人ひとりが“地域の味方”になれる社会へ、学びを次の行動につなげてまいります。

